| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-449  (Poster presentation)

三陸の水温上昇に伴うアカウミガメの回遊時期の早期化【A】
Earlier shifts in the migration of loggerhead turtles (Caretta caretta) in response to the rising sea surface temperatures in the Sanriku region【A】

*小山初菜(東京大学), 福岡拓也(東京大学), 齋藤綾華(国立極地研究所), 佐藤克文(東京大学)
*Hatsuna KOYAMA(The University of Tokyo), Takuya FUKUOKA(The University of Tokyo), Ayaka SAITO(NIPR), Katsufumi SATO(The University of Tokyo)

 海洋環境は数年から数十年スケールで大きく変動し、海洋生態系も大きく変わる。世界有数の好漁場である東北地方の三陸では、海洋熱波の頻発や黒潮続流の極端な北偏により夏季の水温上昇が著しく、海洋動物への影響評価が急務である。回遊性の高次捕食者の海域利用は生態系の動態を反映し、climate sentinelsとも呼ばれる。こうした動物では海域利用を反映する回遊そのものを調べる必要があるが、十年以上に及ぶ継続的な回遊追跡調査が行われている種は少ない。アカウミガメ (Caretta caretta) は2005年から続く三陸沿岸定置網による混獲調査と2009年から行われる長期回遊追跡調査から、水温の上がる夏季にのみ三陸まで北上することが明らかになっている。
 世界各地で水温上昇による海洋動物の回遊の季節性の早期化や分布域の北上が予測されている。本研究では20年間に及ぶ混獲調査により三陸に来遊するアカウミガメ集団の来遊状況を定量的に評価した上で、2009年から続く人工衛星発信機による1年間の長期回遊追跡により、近年の三陸の水温上昇がアカウミガメの海域利用に及ぼす影響を実証した。混獲調査の解析から来遊時期のピークが10年で15日程早まったことが明らかになった。長期回遊追跡の結果もこれを支持しており、定点観測だけでなく個体の回遊からも北上時期の早期化を示した。三陸に来遊する本種は、近年の夏季の水温上昇期の早期化に伴い北上回遊の時期を早めており、その結果として経験水温は15~20℃の範囲に収まっていることが明らかになった。一方で、分布域の顕著な北上傾向はなく、水温上昇に対する従来の応答予測とは異なる結果が得られた。気候変動が注目される中で水温上昇の海洋動物への影響は世界的に研究が進んでいるが、回遊時期の早期化のようなphenologyの変化に関する知見は少ない。特に回遊追跡により海洋動物の回遊そのものの変化を実証した例は数例しかなく、本研究は海洋動物の急激な環境変動への柔軟な対応を示す新たな知見となる。


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