| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-456 (Poster presentation)
マダニは、特定の動物にのみ寄生する種から広範な動物種を利用する種まで、宿主特異性が多様である。マダニは第1脚前端のハラー氏器官の化学受容器で宿主動物を知覚する。視覚をほとんど持たないとされるマダニは、この化学受容器を用いて宿主を選択すると考えられてきたが、その実証的知見は不足している。
そこで本研究は、関東地域5地点で採集したマダニ3種(キチマダニ Haemaphysalis flava、ヒゲナガチマダニ H. kitaokai、オオトゲチマダニ H. megaspinosa)を用い、代表的な宿主動物4種(ニホンジカ、イノシシ、ニホンアナグマ、ヒト)の臭気に対する反応を、Y字管オルファクトメーターによる行動実験で観察、臭気への選好性(PI)を算出した。同時に、全国の採集記録データベース(Morishima et al. 2025)から標準化残差を算出し、これを野外における寄生頻度の指標としてPIとの関係を解析した。さらに実験に用いた宿主臭気についてガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて定性分析を行い宿主臭気に含まれる特異的な揮発性物質を探索した。
結果、マダニの臭気に対するPIと寄生頻度の指標である標準化残差には有意な正の相関があった(β = 0.037, χ2 = 7.94, p < 0.005)。この傾向に有意なマダニの種間差や交互作用は認められず、マダニ類が共通して臭気を宿主選択に用いている可能性が示唆された。さらにGC-MS分析の結果、各動物種の臭気に特徴的な揮発性物質が同定された。これらの成分がマダニの宿主認識に影響している可能性が示され、その臭気への反応の違いが、マダニの宿主選択を駆動する至近要因の一つと考えられた。