| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-461 (Poster presentation)
氾濫原とは河川の氾濫時に水の及ぶ河川周辺の平地のことである。そこに存在する三日月湖や後背湿地などの水域は、河川の増水時に本流と接続されて流水化したり、乾燥期に干上がったりする、変化に富んだ環境である。このような変化は、氾濫原に生息する水生昆虫にとっては個体群を維持する上での制約になることが予想される。
本研究では、北海道北部を流れるブトカマベツ川の氾濫原を調査地として、水生昆虫の氾濫原環境の利用を明らかにすることを試みた。雪解けや大雨による出水や、初夏の乾燥による影響を調べるため、2025年の5月から10月にかけて計7回の調査を実施した。河川本流と接続される頻度が異なる計16の水域を調査サイトとして設定し、主に止水種からなる甲虫目、半翅目、トンボ目を対象に、定量調査を行った。
サイトあたりの平均出現種数は3.5種と少なかったが、調査全体では18科44種の昆虫が出現し、β多様性の高さが示された。出現種のうちの過半数は甲虫目のゲンゴロウ科とガムシ科が占めていた。止水-流水の変化や干上がりのパターンの異なる水域では群集に違いが見られ、それらの変化の履歴が群集組成と個体数に影響を与えている可能性が示唆された。季節的に干上がる浅い湿地には小型の甲虫目、水深の深く安定した三日月湖では中型のゲンゴロウやエゾトンボ科のヤゴなどが特異的に出現したが、頻繁に流水化する三日月湖に特有の種は見られなかった。この結果から、浅い湿地のような変化のある環境にも適応した種が存在することが分かった。ただし、実際に生息地が流されたり干上がったりしている最中に水生昆虫がとこへ行き、その後どのように再侵入してくるのかについては、さらなる研究が必要である。現代において天然の氾濫原のほとんどは消失しているが、本研究の結果は、不安定な浅い湿地を含む多様な水域を維持・再生することが氾濫原生物を保全する上で重要であることを示唆するものである。