| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-471 (Poster presentation)
スズメバチタマセンチュウはスズメバチ女王に寄生し、これを不妊化する寄生虫である。スズメバチは生態系の上位捕食者であり、この寄生虫が群集に及ぼし得る潜在的影響は大きい。しかし、本種は2007年に新種として記載されたばかりで、知見は依然として乏しい。例えば、唯一の同属種であるマルハナバチタマセンチュウでは宿主の分散能力を抑制することが報告されているが、本種では不明である。また近年、マルハナバチタマセンチュウには隠蔽種と言えるほど系統的に異なる多様な群が含まれることが明らかになったが、それらと本種との系統関係も不明である。そこで本研究では、これまでスズメバチタマセンチュウの報告例がない富山県における感染状況を調査し、さらに感染率の空間分布から宿主の分散能力抑制の可能性を検討した。加えて、得られた標本の遺伝解析を行い、マルハナバチタマセンチュウや他地域で報告されたスズメバチタマセンチュウとの系統関係を評価した。
2024~2025年の4月下旬から6月末にかけて富山県各地にベイトトラップを設置し、捕獲したスズメバチ女王を解剖して感染の有無を判定した。特に呉羽丘陵では、約200 m間隔の14地点にトラップを約3ヶ月間継続して設置することで、狭い空間スケールでの感染率の空間分布を解析した。
その結果、感染は呉羽丘陵でのみ確認され、宿主はキイロスズメバチ、オオスズメバチ、ヒメスズメバチ、モンスズメバチであった。モンスズメバチからの感染確認は初報告である。呉羽丘陵内では、感染率が東側と西側で異なる傾向を示し、宿主の分散が抑制されている可能性が示唆された(ただしサンプル数が少なく、統計的には有意ではなかった)。遺伝解析の結果、本種はマルハナバチタマセンチュウの隠蔽種群とは明確に異なるクレードに属することが示された。今後は、感染率の空間分布が年をまたいで維持されるかを追跡し、宿主の分散抑制の有無を明確に検証したい。