| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-480 (Poster presentation)
局所生態系に系外由来の無機栄養素,有機物,生物が流入する現象は異地性流入と呼ばれ,陸域と海域の移行帯である沿岸生態系において顕著である.河川上流を起源とする礫土砂や流木の干潟への供給は,生物にとって新たな生息場を創出し,底生生物の群集構造だけでなく特定の種の個体群動態に影響を与えると考えられる.本研究は,河口干潟を対象に,河川上流由来の礫導入を野外操作実験として再現し,異地性流入が底生生物群集および優占種の個体群動態に与える影響を定量的に評価することを目的とした.
2024年3月,緑川河口干潟の中洲 (砂泥場)に,緑川上流のダム砂礫を,直径5–20 mでランダムに5つ設置した.導入された砂礫場を実験区とし,実験区周辺の天然砂泥場を対照区と設定した.2024年3月から毎月1年間,コドラート法により底泥を採集し,底生生物を同定・計数した.各出現種は表在性・埋在性に分類し,群集の種数,多様度と,主要5種の個体数の変動要因(区,サイズ,時間)の相対重要性を評価した.さらに,優占種アサリについては殻長を測定し,体長組成の時系列変化から,加入,生残,成長の区間の違いを算出した.
表在性は種数,個体数,多様度のいずれにおいても実験区で有意に高かった.埋在性は種数で区間に有意差は認められなかった.一方で個体数は実験区で有意に高かった.優占種の中でもアサリ,シオフキガイ,コケゴカイの個体数は実験区の正の影響が認められた.特にアサリは10月以降,実験区で個体数・成長・生残が対照区より有意に高く,対照区では冬季以降ほぼ消失した.これは礫隙間の物理環境(例:流速)の安定化や密度効果の緩和による効果の可能性があることが示唆された.干潟への河川土砂(砂礫)の流入(ダム治水等による砂礫の流入制限)は,底生生物群集の多様性に正の効果をもたらすだけでなく,特定の種の個体群サイズ,成長,生残を制御している可能性が示唆された.