| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-481  (Poster presentation)

有明海の底生動物群集形成に寄与する環境要因と空間構造の相対的重要性の評価【A】
Community changes before and after hypoxia: evaluating environmental and spatial factors shaping benthic assemblages in Ariake Bay【A】

*廣川未来(熊本大・理)
*Mirai HIROKAWA(Kumamoto Univ. FS)

有明海は干満差が大きく閉鎖性の強い内湾であり,特産種・準特産種を含む多様で希少な底生生物種が生息している.一方,夏季には強い成層化により貧酸素水塊が大規模に発生するため,動物群の群集構造は劇的に変化することが知られる.各出現種の環境変動(貧酸素)への応答 (回避・耐性)や競争・捕食などの生物間相互作用も大きく変化することが推察される.そこで本研究では,有明海奥部において貧酸素発生前 (春)と消失後 (秋)の底生生物群集の変化を定量的に把握し,空間構造・底質環境・貧酸素履歴の三要因が遷移動態に与える影響を評価した.
底生生物群集は,2023年6月と2022年9月に8地点でそりネットを用いて定量採集し,採集の際,水質と底質を測定した.貧酸素履歴は,各定点に設置されている連続観測機器を参照し,貧酸素の発生頻度と持続時間をもとに,段階評価した.
群集構造は季節間で有意に変化し,貧酸素前にはマルスダレガイ目やダルマゴカイ目が優占したのに対し,貧酸素後にはスピオ目や十脚目が増加するなど顕著な種の置き換わりが起こった.三要因の説明力は貧酸素後に55%から62%へ増加し,特に底質の寄与が高まった.一方,「地点の貧酸素の起きやすさ」を示す指標である「貧酸素履歴」の説明力は低下し,強い貧酸素化により底生生物が駆逐された空ニッチに十脚目などの遊泳性・日和見的分類群が移入した.貧酸素前にはヒメカノコアサリやダルマゴカイ属が貧酸素履歴・シルト率と正の相関を示したが,貧酸素後には相関が弱まり個体数も減少した.貧酸素後にはフクロハネエラスピオが貧酸素履歴と正の相関を示し,日和見種として空白ニッチを迅速に占有した.
有明海奥部の底生生物群集は夏季の貧酸素化により著しい種の置き換わりが生じ,特に強い貧酸素化が起こる場所では貧酸素化後に遊泳種や日和見種が移入する遷移パターンが示唆された.


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