| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-506 (Poster presentation)
日本列島では,大陸で分化した複数の系統や近縁種が互いに異なる年代やルートで移入し,分布境界線や交雑帯を形成している例が見られる.その1例として,北海道に生息する温帯系のウスバシロチョウ(Parnassius glacialis:以降ウスバ)と北方系のヒメウスバシロチョウ(P. stubbendorfii:以降ヒメ)が挙げられる.本研究では,北海道における両種の種間交雑の実態を明らかにすることを目的とし,2017年と2025年の6月に北海道の混生地を中心に両種の分布と発生フェノロジーの調査を行い,dpMIG-seq法によるゲノムワイドSNPsとミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づく交雑判定および集団遺伝学的解析を行った.
その結果,混生地として有名なむかわ町の1地点では,2017年の成虫の発生フェノロジーは種間で異なり,6月上旬から下旬にかけ,ヒメ雄,ヒメ雌とウスバ雄,ウスバ雌の順に発生し,両種の中間的形質個体は上旬から中旬に記録された.しかし,2025年には同地やその周辺でヒメは発見されなかった.SNP解析では,2017年に採集された中間的形質個体(むかわ町10個体,夕張市1個体)は全て,遺伝的にも中間的特徴を示し,F1個体であると推定された.また,どの個体もmtDNAはウスバであり,ヒメ雄とウスバ雌の交雑で生まれたと判定された.さらに,夕張市では両種の分布が隣接しており,形態も核DNAもヒメと判定された1個体で,ウスバのmtDNAを持つことが確認された.
以上の結果から,むかわ町では2017-2025年の間にヒメが消失して分布境界が移動したことが示された.また,混生地における両種の交雑は発生時期が最も離れた組み合わせ(ヒメ雄✕ウスバ雌)でのみ生じやすく,分布の隣接地ではヒメ集団にmtDNAが僅かに遺伝子浸透していることも示唆された.