| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-511 (Poster presentation)
雌にとって過多な交尾は病気感染や被食リスクを高めることから、複数雄[宮竹1.1]との多回交尾はコストであると考えられてきた。一方で、その雌の多雄交尾の適応的意義の一つとして、交尾失敗のリスクを低減する効果を持つ両賭け戦略が指摘されている。先行研究において我々は、コクヌストモドキ Tribolium castaneum を用いた進化実験により、不妊雄が混在する環境下で集団を約18世代にわたり累代飼育した結果、雌が高い多雄交尾活性を示すように実験下で進化したことを明らかにした。この結果は、繁殖失敗のリスクが大きな環境下では雌の多雄交尾が進化しうることを実証した。その一方で、性的対立における雌雄間での拮抗的な共進化においては、メスの抵抗形質は生活史形質とトレードオフの関係であることが報告されているものの、実験進化系統の雌の生活史形質における進化的応答については不明であった。そこで本研究では、上記の実験進化系統を用いて、雌の生活史形質を系統間で比較した。その結果、処理系統の雌は、発育期間、体サイズ、寿命のいずれにおいても対照系統よりも優勢であることが明らかになった。これらの結果は、雌の多雄交尾の進化に伴いそのコストへの耐性も増加した結果として生活史形質が向上した可能性を示唆している。本研究によって、不妊雄との共存は雌の交尾行動だけではなくて生活史形質をも間接的に進化させることが示唆された。さらに、不妊雄が混在する環境は繁殖失敗の不確実性が高い条件であり、このような状況では単回交尾への依存は適応度の大きな変動をもたらす可能性がある。したがって、多雄交尾の進化は単なる交尾コストへの耐性の進化ではなく、繁殖成功のばらつきを低減する両賭け戦略の進化として解釈できる。本研究で観察された雌の生活史形質の向上は、生存や成長の安定性が重視される方向へ生活史戦略が再編成された結果として生じた可能性がある。