| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-512 (Poster presentation)
資源をめぐる動物の闘争行動において、所有者がより強く闘うというブルジョア戦略は、役割非対称な闘争における代表的な進化的安定戦略として知られている。しかし、資源の価値が体サイズなど個体の身体的制約と強く結びついている場合、この単純な役割固定戦略が必ずしも成立するとは限らない。
エンマグモ科ミヤグモ(Ariadna lateralis)幼体は、巣をめぐる闘争行動を示すが、生態学的特徴から巣という資源の価値が体サイズおよび巣穴サイズとの対応関係に大きく依存すると考えられる。このため、所有者であること自体が常に高い資源価値を保証するとは限らない。
この状況を理論的に検討するため、進化ゲーム理論における持久戦ゲームにおいて、体サイズと巣穴の比に依存して利益が変化すると仮定しモデルの分析を行った。所有個体としてのみ防衛を行う「守り戦略」と、侵入個体としてのみ攻撃を行う「攻め戦略」を定義し、これらの純粋戦略に対し、役割に依存せず確率分布に従って闘争時間を選択する混合戦略の侵略可能性を解析した。
解析の結果、斜面の岩の隙間といった限られた穴を資源とし、体サイズと巣穴サイズの適合性が巣の価値を大きく左右するというミヤグモ幼体の闘争行動の仮定をモデルに組み込むことで、非対称な持久戦ゲームにおいて一般に予測される混合戦略の安定性が一様には成立しないことが示された。特に、体サイズと巣穴サイズの比が巣の価値を最大化する範囲にある場合には、所有個体が防衛に特化する守り戦略が、混合戦略からの侵略を許さず強く進化的に安定となる領域が現れた。一方で最適比から外れた条件下では、混合戦略が純粋戦略を侵略可能な領域も同時に存在し、ミヤグモ幼体の巣をめぐる闘争における戦略の安定性は、体サイズと巣穴サイズの関係に強く依存することが明らかとなった。本結果は、体サイズに依存したミヤグモ幼体の闘争行動を、実証的に観察・検証するための理論的指針を与える。