| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-516 (Poster presentation)
Diplogastridae科に属する線虫には口腔形態の表現型可塑性をもち、環境に応じて口腔形態と食性が不可逆的に変化するものが含まれる。しかし、同科の一種であるOnthodiplogaster japonica(以下雑食線虫)は、現状1つの口腔形態しか確認されていないにも関わらず、1つの口腔形態で3種の食物を利用できる唯一の雑食性種であることが知られている。他の口腔多型を有する雑食性種との系統関係から、この線虫は、祖先種が口腔多型を有し、進化の過程で口腔多型を失ったと考えられている。従って、この線虫や近縁種の食性・口腔形態に関する研究の推進により、線虫の口腔形態や可塑性の進化と環境適応の関係を明らかにできる可能性がある。将来的には動物全般の「相同器官の形態の進化」の理解を広げる成果となることが期待される。しかし本線虫種において、口腔形態を幾何学的に解析した事例はなく、先行研究で確認されていない多型が存在する可能性が残されていた。本研究では、雑食線虫の口腔多型の有無の解明を目的とし、雑食線虫と、近縁種で明確な多型を持つMononchoides sp.(以下多型種)の2種それぞれを、異なる2つの食性条件で培養し、それらの口腔のStack画像から口腔形態の幾何学的形態測定法による解析を実施した。結果、形状(Shape)について、多型種は明確な2型があることが示唆されたが、雑食線虫は培養条件の違いによる形状の違いに有意な差は認められず(PERMANOVA-RRPP, p=0.276)、クラスター解析においても1つのクラスターとして検出された。一方、形状に重心サイズの情報を含めた形態(Form)については、雑食線虫は培養条件の違いにより差が生じることが示唆され、重心サイズについても培養条件の違いにより有意な差が認められた(PERMANOVA-RRPP, p=0.039)。以上のことから、雑食線虫は口腔の“形状”の可塑性を失った一方、口腔サイズの可塑性は有していることが示唆され、口腔多型を失う過渡期にある可能性が考えられた。