| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-521 (Poster presentation)
イヌタデ属(Persicaria)はナデシコ目タデ科の草本植物である。先行研究では、イヌタデ属のツルソバ節やミゾソバ節の多様化には中新世中期の温暖な気候が関係している可能性が指摘されている。一方で、イヌタデ節は500万年前から急速に種分化したと推定されており、ほかの節と異なっている。しかし、イヌタデ節の多様化を駆動した要因については明らかになっていない。そこで本研究では、イヌタデ属各種の気候ニッチに着目し多様化過程を考察した。
具体的には、(1)26種241個体の日本産イヌタデ属を対象に葉緑体DNA matK, trnH-psbA領域に基づく系統解析、(2)GBIFのオカレンスデータとWorldClim気候データを用いた各種の気候ニッチの比較、(3)気候ニッチの系統シグナルの検証と多様化過程の推定を行った。
結果、これまで系統関係が知られていなかった7種の系統位置が明らかになり、ヤナギタデとサクラタデ、ボントクタデの間で交雑が示唆された。気候ニッチは、主に本州に生育する種と沖縄に生育する種で分割されており、本州で見られる種はニッチ幅が大きく、種間のニッチの重複は大きい傾向にあった。しかし、イヌタデ属において気候ニッチの系統シグナルは見られず、特にイヌタデ節では近縁種間で気候ニッチの多様化が起きたことが示唆された。イヌタデ節の多様化が始まった、中新世後期における海水面の上下に伴う地理的隔離や、モンスーンの強化が生んだ多様な季節性が、イヌタデ属の多様化に貢献したと考えられる。