| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-525  (Poster presentation)

スズメガ科幼虫はなぜ尾角を持つのか?【A】
Why do the hawkmoth larvae have the caudal horns?【A】

*爲則咲百合, 今田弓女(京都大学)
*Sayuri TAMENORI, Yume IMADA(Kyoto Univ.)

大型鱗翅類の幼虫は、体色や模様に加えて、表面構造(突起や棘)において顕著な種間変異を示す。これらの形質の進化要因として視覚的捕食者による自然選択が注目されており、とくに体色や模様に関して捕食者への防衛効果を示した研究は多い。一方、多くの突起状構造物については進化要因が未解明であり、スズメガ科(鱗翅目カイコガ上科)の幼虫が第8腹節背面にもつ一本の角状突起、「尾角」もその一つである。尾角はスズメガ科内で広く共有されており、形態や可動性などに顕著な種間差があるが、機能に関する知見は少ない。そこで本研究では、機能仮説を検証するため、尾角の形態およびスズメガ幼虫の行動的特性を調査した。とくに最も有力な仮説とした捕食回避機能を検証するため、野外に幼虫模型を設置する実験を行った。
まず、尾角が感覚機能をもつ可能性を検討するため、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面の感覚子を観察したが、尾角の感覚機能を十分に検証することはできなかった。また、µCTと光学顕微鏡を用いた内部構造の観察からは尾角の前後に付着点をもつ筋組織候補が発見され、これが一部の種で行われる尾角の前後運動に関与すると考えられた。さらに、尾角の切除個体と通常個体での脱皮時の行動比較から、尾角をもつことは脱皮時間の延長に繋がることが明らかになり、突起物をもつ潜在的なコストを示した。最後に、尾角の有無が異なる幼虫模型間で攻撃率を比較した野外実験からは、尾角をもつモデルで攻撃率が低下し、捕食回避仮説が支持された。このように本研究は、スズメガ幼虫の尾角について多角的なアプローチから調査し、捕食回避を主とした機能と潜在的なコストに関する重要な知見を得た。今後は、尾角の多面的機能および形質の多様化に関する進化要因を総合的に検証していくことが求められる。


日本生態学会