| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-529  (Poster presentation)

両側回遊魚ウツセミカジカの湖沼陸封集団の進化的起源と適応【A】
Evolutionary origin and adaptation of the lacustrine landlocked population of the amphidromous sculpin Cottus reinii【A】

*池内鏡子(京大院), 三内悠吾(京大院), 井戸啓太(京大院), 伊藤僚祐(京大院), 田畑諒一(琵琶博), 武島弘彦(福井県里山里海湖研), 田原大輔(福井県大海洋資源生物), 渡辺勝敏(京大院)
*Kyoko IKEUCHI(Kyoto Univ.), Yugo MIUCHI(Kyoto Univ.), Keita IDO(Kyoto Univ.), Ryosuke ITO(Kyoto Univ.), Ryoichi TABATA(Lake Biwa Museum), Hirohiko TAKESHIMA(Fukui Satoyama-Satoumi Inst.), Daisuke TAHARA(Fukui Prefectural Univ.), Katsutoshi WATANABE(Kyoto Univ.)

 通し回遊魚が淡水環境に陸封される現象は,魚類の進化史において繰り返し生じ,さらなる生態・生活史の多様化を含め,魚類多様性の創出における重要な進化的事象として知られている.両側回遊性の生活史をもつウツセミカジカには琵琶湖に陸封された集団が存在し,さらに水深70 m以深の深底域の環境(深場)を利用する個体も確認されている.本研究は,本種の琵琶湖集団の起源,ならびに琵琶湖集団内での深場個体の系統的位置付けと,深場環境への適応の解明を目的として,主に形態データ,全ゲノムデータおよびトランスクリプトームデータを用いた解析を行った.琵琶湖内外のウツセミカジカと外群としてのカジカ(大卵型)の計25個体から取得した全ゲノムリシーケンスデータを解析した結果,ウツセミカジカ琵琶湖集団と湖外の両側回遊集団は,数十万年前から独自の歴史的集団動態パターンを示した.またミトゲノムデータからも琵琶湖集団は,現代型琵琶湖の形成(約40万年前)に先立ち,湖外の両側回遊集団と分岐したと推定された.一方,琵琶湖の深場と浅場・河川サンプル間で明瞭な遺伝的分化は認められず,両者の歴史的集団動態も一致していたことから,遺伝的に独立した深場集団の存在は支持されなかった.しかし深場個体の形態的特徴として,尾柄高が低く,胸鰭長が短い傾向を示した.また遺伝子発現解析の結果,深場個体では,内分泌・代謝関連遺伝子を含む細胞機能の維持に関与する遺伝子群の発現量が高い傾向が示された.以上の結果は,琵琶湖への侵入とそれに続く陸封を契機として派生した本種の深場適応機構を解明する大きな手がかりとなるだろう.


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