| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-537  (Poster presentation)

形態変異の階層間類似性:トリバネアゲハにおける発生ゆらぎから大進化までの比較【A】
Similarity of morphological variation across biological scales in birdwing butterflies: From developmental instability to macroevolution【A】

*小野嵩斗(千葉大), 安井行雄(香川大), 坪井助仁(ルンド大), 高橋佑磨(千葉大)
*Takato ONO(Chiba Univ.), Yukio YASUI(Kagawa Univ.), Masahito TSUBOI(Lund Univ.), Yuma TAKAHASHI(Chiba Univ.)

地球上には多種多様な生物が存在する。彼らは自然選択のもと、発生上の制約や物理的な制約などよって方向性を制限されながら進化してきた。この制約を作り出す要因のひとつが、形質間の遺伝相関である。遺伝相関は形質間の共分散行列として定量され、この行列の最大固有ベクトルの方向に沿って小進化が進みやすくなる。また、遺伝相関は、大進化の方向性も制約することが一部の生物で明らかにされてきた。一方、発生上の制約は、発生ゆらぎや表現型可塑性などの非遺伝的変異も制約するとされる。すなわち、あらゆる階層の表現型変異パターンが関連している可能性があるのだ。ただし、先行研究はショウジョウバエ類に集中しており、表現型変異パターンの階層間での類似性についての普遍性の検証が不十分であった。本研究では、トリバネアゲハ類の翅形態について、発生ゆらぎと集団内変異、集団間変異、亜種間変異、種間変異、属間変異、性差の7階層間で形態変異を比較した。具体的には、531個体の左前後翅において計43点のランドマークの座標を取得し、前後翅それぞれについて一般化プロクラステス分析で標準化したのち、変動主要因分析により階層ごとに各ランドマークの座標の分散を計算した。さらに、階層間で各ランドマークの分散の相関を調べたところ、近い階層間でのみ強い相関が認められた。発生ゆらぎと集団内変異の分散にみられた強い相関は、これらが共通の発生のシステムから制約を受けていることを示唆している。一方で、離れた階層間で相関がみられなかったことは、下位階層における制約の影響が進化的時間スケールでは効果を発揮しないことを示唆している。チョウの翅のように多様な選択圧の働く形質では、発生上の制約は進化の方向性を制限できないものと考えられた。下位階層からの進化の予測は、選択のかかりづらい形質でのみ可能なのかもしれない。


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