| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-540  (Poster presentation)

知床半島のオショロコマにおける浸透性交雑が個体レベルの適応度に及ぼす影響【A】
Effects of introgressive hybridization on individual-level fitness in Salvelinus curilus of the Shiretoko Peninsula【A】

*福澤航生(東京大学), 山本祥一郎(水産研究・教育機構), 佐橋玄記(水産研究・教育機構), 野別貴博(知床財団), 安樂健太(東京大学), 森田健太郎(東京大学)
*Kousei FUKUZAWA(The University of Tokyo), Shoichiro YAMAMOTO(Japan Fish. Res. Edu. Agency), Genki SAHASHI(Japan Fish. Res. Edu. Agency), Takahiro NOBETSU(Shiretoko Nature Foundation), Kenta ANRAKU(The University of Tokyo), Kentaro MORITA(The University of Tokyo)

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)は他種へ浸透して核ゲノムとの不適合を引き起こすことがある。浸透したmtDNAの維持は正の選択あるいは中立的プロセスによると解釈されているが、自然集団において浸透したmtDNAが適応に及ぼす影響については理解が不十分である。本研究では知床半島のオショロコマにおけるイワナ型mtDNAを持つ浸透個体とオショロコマ型mtDNAを持つ非浸透個体の形質を比較することで、mtDNAの浸透が適応に及ぼす影響を検証した。
 採捕調査は夏と秋に13河川で実施し、各河川で河川環境のデータを取得した。全てのオショロコマについて、写真撮影後に遺伝子サンプルを採取した。画像からパーマーク数と胸鰭長を取得し、ランドマーク法を用いて体型を数値化した。秋に採捕した個体は解剖を行い、性別・成熟状況・肝臓重量・生殖腺重量・孕卵数・体重・耳石径・寄生虫付着数を記録した。その後、これらの形質がmtDNA型によって異なるかを、河川をランダム効果とした一般化線形混合モデルを用いて解析した。加えて、同様の方法で環境変数が各河川のイワナ型mtDNAの頻度に与える影響を検討した。
 その結果、浸透個体は14.5%軽い肝臓を持つことが判明した。肝臓重量は産卵数と強い相関関係にあることを踏まえ、各mtDNA型の肝臓重量から孕卵数を予測して相対的な適応度差を算出した。その結果、浸透個体は適応度が3.2%低いという推定値が得られた。イワナ型mtDNAの頻度は河川間でばらついていたが、環境パラメータとの有意な相関は見られなかった。
 肝臓は代謝と密接に関連する臓器であり、本研究で見出された肝臓重量の減少は代謝機能の低下を示唆する。一方、それ以外の形質において有意差はなく、両者は成長や生存においては同水準であることを示唆する。イワナ型mtDNA保有に伴う適応度の低下は3.2%であり、その維持には正の選択ではなく遺伝的浮動が関与する可能性が示唆された。


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