| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-541 (Poster presentation)
急速な気候変動は人間活動と相まって世界的に種の絶滅速度を加速させ、「第六の大量絶滅」とも呼ばれる状況を引き起こしている。昆虫は陸上生態系の基盤を支える存在であり、その環境変化への適応能力を理解することは持続可能な生態系サービスの維持に不可欠である。ヒートアイランド現象は都市部における気温上昇をもたらし、都市部と郊外部の間に明瞭な環境勾配を形成する。この現象は長期的な気候変動を比較的短期間で再現するモデルとなり得る。日本においてヒートアイランドに対する生物の生理的適応に関する研究は限定的であり、とりわけ温度耐性と乾燥耐性を同時に評価した実験的研究は少ない。本研究では、日本国内のヒートアイランド現象に対するクロヤマアリ Formica japonica の生理的適応能力を評価した。東京都内の都市化度の異なる6地点(都市部3地点、郊外3地点)において夏季および冬季に計約400個体を採集し高温耐性および乾燥耐性を調べる実験を実施した。
その結果、各集団の高温耐性は微小気候指標であるUrban Cover Index(一定範囲における人工被覆率)と正の相関を示した一方、各サイトの気温や湿度とは有意な関連を示さなかった。乾燥耐性は郊外個体でやや高い傾向がみられたものの、有意差は認められなかった。以上より、本種は都市化に伴う微小環境条件に応じて高温耐性を変化させていることが示唆された。乾燥耐性については、本種が乾燥環境に適応した営巣特性を有することから、もともと高い基礎的耐性を備えている可能性が考えられる。都市環境において自然な地表面を維持することは、アリ類をはじめとする地上徘徊性昆虫の生息可能性を高める一因となる可能性がある。今後は、同一サイト内の異なる微小環境から個体を採集し比較実験を行うことで、微小気候が生理的耐性に与える影響をより直接的に検証する必要がある。