| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-542 (Poster presentation)
昆虫は地球上で最も繁栄したグループであるが、海洋環境に生息する種は極めて稀である。海洋環境に生息する種は海洋性昆虫と総称され、そのほとんどは沿岸環境に生息しているが、例外的に外洋環境に生息するウミアメンボ類(アメンボ下目アメンボ科)が存在する。近年の系統解析では、沿岸域を含む海洋への進出は、少なくとも7回独立に起こったことが示されている。先行研究では、アメンボ下目において、祖先的な生息環境は湿った陸地であり、植生のある止水域、開放的な止水域、流水域、沿岸域、外洋へと段階的に生息域を拡大したという定性的考察がなされてきた。
本研究では、アメンボ科とカタビロアメンボ科を対象として、流水環境への適応が海面進出の前適応となった可能性を検討するため、系統学的種間比較法を用いた進化過程の定量的検証と、止水種・流水種・海洋種を比較した形態解析を行った。生息環境の進化過程の検証については、止水・流水・海洋の3つの状態間での遷移を想定して祖先形質復元を行った。形態解析については、各種の形態形質(頭部形状や相対脚長など)を用いて、多変量解析を行った。
祖先形質復元の結果、海面進出に先立って流水環境に生息したという進化過程が支持された。また、アメンボ科+カタビロアメンボ科を用いた形態の主成分分析では、流水・海洋種は広く重複していたが、止水種とは頭部形状などによって分離する傾向が認められた。系統的背景を考慮した場合でも、生息環境は形態の変異を有意に説明することが示された。この結果は、両科に共通して、流水環境において進化した形態的特徴が海面進出にあたっても維持されていることを示唆している。発表では、流水環境への前適応仮説について系統および形態の両側面から議論する。