| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-545 (Poster presentation)
トカゲ類では幼体期に赤色や青色等の目立つ尾を有し、成長に伴い茶褐色等の地味な色彩へ変化する種が知られている。幼体の派手な尾色は捕食者の攻撃を尾部に引き付ける囮効果をもつ一方、体サイズ増大に伴い視認性が高まることで捕食リスクを増加させるコストとなることが指摘されている。したがって、捕食回避に関わるコストとベネフィットのトレードオフにより、尾色彩の度合いによる変化タイミングが異なることが予想される。本研究では、神奈川県相模原市立博物館(Sagami)および津久井湖城山公園(Tsukui)の2地点において、ヒガシニホントカゲPlestiodon finitimusの頭胴長および尾部色彩(Lab値)を計測し、幼体期の尾色彩の違いおよび成長に伴う色彩変化様式を比較した。
解析の結果、当年生まれ幼体のL値(明度)およびb値(黄–青軸)に地点間差が認められ、Tsukui幼体はSagami幼体よりも明るく青みの強い尾を有していた一方、a値(赤–緑軸)には差はみられなかった。成長に伴う色彩変化では、体サイズに伴う大きな明度の変化は認められず、Tsukuiのみで体サイズが大きくなっても尾部の青みが残る傾向が認められた。さらに、生息環境の比較から、Sagamiは植生高および枯葉堆積層が発達した閉鎖的環境を、Tsukuiは逃避場所から離れた開放的環境を利用していることが示された。
本研究では、地域間で幼体期の尾色彩と成長に伴う色彩変化タイミングが異なることが示された。より開放的な環境を利用するTsukuiでは幼体の尾色彩が派手であり、囮効果を支持する結果となった。一方で、Tsukuiでは体サイズが大きくなっても尾色彩が維持される傾向がみられ、派手な色彩ほど早期に変化するという仮説とは必ずしも一致しなかった。捕食圧が高い環境では、色彩消失によるメリットよりも派手な尾色による囮効果の方が高い可能性がある。今後は、捕食圧の異なる地域間で体サイズに対する尾色彩変化タイミングを比較することで、トレードオフを明らかにできると期待される。