| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-553 (Poster presentation)
植物の根や土壌微生物などの呼吸により,土壌から大気中に二酸化炭素が放出されることを土壌呼吸と呼ぶ.土壌呼吸速度は,さまざまな環境要因によって変動する.特に窒素に関して,産業革命以降その沈着量が増加している一方で,土壌呼吸速度への影響は未だ明確ではない.ここで,標高は気温や生育期間を変化させる自然勾配で,窒素影響の環境依存性の検証に有用である.しかし,標高傾度にそった土壌呼吸速度に対する窒素の影響を研究した事例はほとんどない.本研究では,標高傾度にそって人為的な窒素負荷を行い,土壌呼吸速度への影響を評価した.これにより,窒素が山岳生態系での土壌呼吸速度に与える影響を明確にし,地球規模の土壌呼吸速度の予測や地球温暖化の将来予測に寄与すると考えられる.
本研究は2025 年に中部山岳の乗鞍岳の標高1600 m, 2000 m, 2500 mの3 標高で調査を行った.実施した窒素付加は日本の窒素沈着量の平均値である11.5 kg N ha-1 year-1を基準とし,硝酸アンモニウム(NH4NO3)溶液を用いて,無処理のコントロール, 2, 3, 5 倍の4 段階の窒素付加を行った.各標高で雪解け後から窒素を6回に分けて行い,土壌呼吸速度をほぼ毎週で測定し,同時に地温と土壌含水率の測定も行った.9 月には全測定地点で土壌採取を行い,細根量,粗根量,土壌中の微生物バイオマス量の指標であるATP量を測定した.
その結果,土壌呼吸速度の応答は標高間で異なった.1600 mでは3, 5 倍の窒素負荷で土壌呼吸速度が増加したものの,細根量やATP量はコントロール区と差はなかった.根の活性の増加や,微生物のプライミング効果の可能性が示唆された.また,2000 mでは2, 3 倍の窒素付加で土壌呼吸速度が増加し,窒素付加に対する土壌呼吸速度の応答が顕著に見られた.一方で,2500 mでは融雪が遅く窒素付加時期が遅れ,窒素付加の影響が土壌呼吸速度に十分に反映されなかった.以上より,窒素の影響が季節制約や標高に伴う植生構造によって変動することが示された.