| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-555 (Poster presentation)
近年、日本国内ではシカによる採食によりササ類などの下層植生の消失が深刻である。ササ類の消失は、土壌侵食を誘発し、土壌の微生物群集やそれらが支える生態系機能を劣化させる。土壌侵食の発生程度は気候条件の影響を受ける。しかし、降水量や積雪量など気候条件の違いがササ消失後の土壌侵食や土壌微生物群集・有機物分解などの生態系機能にどのような影響を与えるのかは明らかでない。そこで本研究では、気候条件の異なる九州地方と山陰地方のブナ林各3サイト(計6サイト)を対象に、シカによるササの消失が土壌微生物群集と有機物分解機能に与える影響を明らかにすることを目的とした。各サイト内で下層植生としてササ類が残存している土壌9地点(ササ残存区)、完全に消失した土壌(ササ消失区)9地点を対象に、以下の調査を行った。2024年秋に土壌を採取し、リン脂質脂肪酸分析法(PLFA法)を用いて微生物群集構造を解析した。有機物分解能は、世界共通で使用されているティーバッグ(緑茶及びルイボス茶)の基質を用いて、1年間の野外培養後の重量減少率を算出して評価した。同時期に、土壌の微気象・物理化学特性の測定を行った。
九州ブナ林では、ササ残存区に比べてササ消失区において菌類/細菌類(F/B)比が有意に低く、微生物のストレス指標であるCy/pre比が有意に高かった。一方で、山陰ブナ林では下層植生の有無による微生物群集の違いは得られなかった。ササ消失区で土壌侵食が多く発生していた九州ブナ林では、表層土壌およびリターの流亡により、菌類の減少やストレスに対する微生物の応答が起きていると考えられた。一方で、難分解性のルイボス茶のリター分解速度はいずれの地域でもササ残存区と比べてササ消失区で有意に遅かった。以上の結果から、ササ類の消失は土壌の微生物群集構造および有機物分解能を変化させており、特に土壌侵食の激しい地域で微生物群集への負の影響が大きいことが示唆された。