| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-558 (Poster presentation)
有機物分解は森林生態系の物質循環を駆動する重要なプロセスである。近年、西日本を中心にイノシシの個体数が増加している。イノシシは掘り返し行動を介し有機物分解を変化させることが示唆されているが、野外での実測例は少ない。そこで本研究は、九州大学福岡演習林内の掘り返し跡30地点を対象に有機物分解実験を行った。各地点で、掘り返しにより形成された穴(掘跡区)と、穴の辺縁から1 m離れた対照区にセルロースシートを設置し、2025年6月~10月の分解率を得た。併せて、分解率の変動要因として掘跡の規模(穴深さ等)及び土壌の物理・化学・生物的特性(pH,容積重,トビムシ個体数等)を測定した。土壌特性は主成分分析(PCA)により結果を集約した。また掘跡の深さ、土壌特性の第1・第2主成分得点(PC1,PC2),及び有機物分解率を用いた回帰分析を行った。その結果、掘跡区の有機物分解率(平均66 ± 10%)は対照区(平均53 ± 18%)に比べ約112 ± 440%増加した。主成分得点は、土壌炭素・窒素濃度等の化学性に関するPC1(寄与率約33%)と、含水率、容積重、表層リター量、トビムシ個体数等の物理・生物性に関するPC2(寄与率約16%)として表現された。PC1は対照区に比べて掘跡区で増加(土壌炭素・窒素濃度等の減少)し、その程度は深い掘跡でより大きかった。PC2は掘跡の深さによって増減がばらついた。具体的には、PC2は掘跡深さ25 cmまでは増加(土壌容積重やトビムシ個体数の増加)し、以降は低下(表層リターや体積含水率の増加)した。有機物分解率とPC1は対照区・掘跡区で関係がなかった。対照区の分解率はPC2が高い場所ほど低く、元来の分解率の変動を説明した。一方、掘跡区の分解率はPC2に関わらず一様に高かった。以上より、イノシシの掘り返しは全体として有機物分解を促進するが、その促進効果は元来の有機物分解の遅い地点ほど顕著であり、掘跡の規模や土壌動物群集が関係していることが示唆された。