| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-559  (Poster presentation)

這った後にも影響が?~貝の粘液が生態系にのこすもの~【A】
Are there any effects after crawling?ーWhat snail mucus leaves behind in the ecosystemー【A】

*宮本菜々子(宮崎大学), 林雅弘(宮崎大学), 佐藤拓哉(京都大学), 和田葉子(宮崎大学)
*Nanako MIYAMOTO(Miyazaki Univ.), Masahiro HAYASHI(Miyazaki Univ.), Takuya SATO(Kyoto Univ.), Yoko WADA(Miyazaki Univ.)

生態系において、草食者は生産者に対して負の影響を及ぼす存在として捉えられがちであるが、糞や尿を通じた栄養供給など、正の側面も併せ持つ。特に貝類が移動のたびに分泌する粘液には、海水以外にも糖・タンパク質が含まれ、有機物源となり得る。しかし、その分泌量が微量であることから、定量的評価は困難であった。
本研究では、吸光度に基づく新規定量法を確立し、野外で頻繁に観察される7種の貝を対象に移動距離あたりの糖分量の関係を検討した。さらに、野外で観察された貝類の水中滞在時間には、同種内でも個体ごとで数分~数時間の差があったため、水中での滞在時間と糖分量の関係も調べた。
その結果、糖分量は種間で大きく異なり、距離および時間の影響も種特異的であった。長時間条件では同一経路を反復する個体が多く確認され、一部の種では移動距離の増加に伴い粘液中の糖分量が減少した。この結果は、初回移動時と比較して再通過時には粘液分泌量が減少する可能性、あるいは既存の粘液を再利用・摂餌している可能性を示唆する。一方、移動距離に依存せず、滞在時間の延長に伴い糖分量が減少する種も認められた。これは、分泌後の粘液が時間の経過とともに微生物によって分解される、あるいは物理的に拡散・希釈されることによって、測定可能な糖分量が減少した可能性が考えられる。
以上の結果は、粘液供給量の推定において、単純な移動距離のみでは不十分であり、種ごとの行動特性および滞在時間を考慮する必要があることを示している。本解析で得られたデータを野外行動データに統合すると、野外における粘液由来糖分は継続的に供給されるが、すぐに分解されていく可能性があることが示唆された。


日本生態学会