| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-563 (Poster presentation)
高温多湿な環境下にある熱帯林では、強い土壌風化により可給性無機態リン(Pi)が乏しいため、有機態リン(Po)が植物・微生物の主要なリン(P)供給源となっている。したがって熱帯林の物質循環の実態の解明には、土壌有機物の特性を把握することが不可欠である。熱帯林には母岩や風化傾度が異なる多様な土壌が存在しており、土壌Pが少ないほど植物・微生物は有機物中から他の元素に比べPをより効率的に獲得・利用する。そのため、土壌有機物中の炭素(C)・窒素(N)・Pの化学量論的特性はP勾配に伴い大きく変化すると予想される。ところが、多様な熱帯林において土壌有機物の化学特性の変異とその駆動要因は調べられていない。そこで本研究では、土壌P傾度に沿った①表層土壌の有機態C・N・P濃度比、さらにそれに影響する②植物リターのC・N・P濃度比や③優占樹木の落葉前の栄養塩再吸収効率の変化を調べた。
マレーシア・サバ州の熱帯低地林106地点において表層10 cmの土壌を採取した。全C・Nに加え、Pi・Po濃度(Hedley法:0.5M NaHCO3, 0.1M NaOH, 1M HCl画分)を測定し、土壌のN/Po比・C/Po比を算出した。また22地点において、リタートラップで回収した葉リターのC・N・P濃度を測定し、リターN/P比・C/P比を算出した。さらに、優占樹種の生葉と葉リターからN・P再吸収効率を定量した。
土壌全P濃度は、41- 610 mg kg-1(うちPo:1.9-151 mg kg-1)であり幅広い勾配がみられた。植物が利用可能なP(Pi + Po)濃度が低い地点ほど、土壌N/Po比(10-443)、葉リターN/P比(16-157)はそれぞれ上昇した。特に土壌N/Po比が大きく上昇し、リターN/P比との差が拡大した。これは、リター分解の過程で有機物中のPが選択的に無機化された結果と考えられる。一方でN・P再吸収効率に有意な差はなかった。以上の結果から熱帯林の表層土壌の有機物には化学量論的に大きな変異が存在し、その駆動要因として植物リターの性質と土壌におけるPoの無機化が重要である可能性が示された。