| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-589  (Poster presentation)

LiDARスキャンが明らかにするヒグマ痕跡の形成と消失の過程【A】
LiDAR scanning reveals dynamics in the 3D structure of pedal markings by brown bears【A】

*内田凜(札幌科学技術専門学校), 細木拓也(北海道大学)
*Rin UCHIDA(Sapporo Technical College), Takuya HOSOKI(Hokkaido Univ.)

野生動物が残す痕跡の観測は、個体数管理やゾーニングの基盤情報となる。一方で、「いつ、何個体が、どのような痕跡を残し、いつまで維持されるのか」といった、形成と消失過程の定量評価は、三次元的な微痕跡を記録する手法が乏しいために困難であった。そこで我々は、ヒグマが残す痕跡をモデルとし、汎用モバイル端末搭載のLiDARスキャナによる三次元的な定量と長期観測の有効性を示す。ヒグマが残す顕著な痕跡に一つに、ペダルマーキング跡がある。複数個体が同一の足跡でペダルマーキングすることで地面が掘られ、より深い足跡となる。我々は北海道大学苫小牧研究林において、春から初冬までのヒグマ行動期に、2年間、2−4週間の間隔で、ペダルマーキング跡のLiDARスキャンを実施した。ペダルマーキングの頻度はセンサーカメラによって記録し、微地形変化との対応を解析した。まず、ペダルマーキングは繁殖期に高頻度で行われ、その際に深い足跡状の痕跡が残ることが判明した。繁殖期に形成された足跡は初冬まで残り、翌年も同位置にマーキングがなされることもわかった。興味深いことに、非繁殖期にも同位置にペダルマーキングは行われてたが、繁殖期の様に深く掘られることはなかった。その理由としては、雪解け直後や初冬は土壌凍結により地面が硬化していること、夏から秋にかけてはマーキング自体が低頻度な上に、多雨によって絶えず埋没していることが考えられる。本結果は、ヒグマのペダルマーキング跡の形成と維持の期間が、地表の状態や季節により著しく異なることを示唆する。とりわけペダルマーキング跡の深さや大きさにのみに基づく出現頻度推定は、非繁殖期において不正確となるリスクがある。本研究は、モバイル端末に搭載されているLiDARスキャナが野生動物の微痕跡の動態解明において、簡便かつ強力なツールとなり得ることを提示するものである。


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