| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-591 (Poster presentation)
近年、日本各地においてニホンジカ(Cervus nippon)の個体数増加および分布域の拡大に伴い、森林下層植生への過剰な採食による影響が深刻化している。多くの森林で下層植生の被度低下や種組成の変化が確認されており、その対策として防鹿柵の設置が進められているが、より有効な植物保全策の検討が急務である。国内外の先行研究から,高い採食圧下ではシカの嗜好性の高い植物種は消失するが、植物体の一部が採食されることで物理的あるいは化学的な防御反応を示す種は残存しうることが報告されている。
そこで本研究では、尾瀬国立公園内の森林を対象として、防鹿柵内外における下層植生の構造および植物の葉の防御特性を比較し、ニホンジカの採食圧が下層植生に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。防鹿柵内外に方形区を設置して植生調査を行い、主要構成種の葉の一部について物理的防御の指標としてLMA(葉面積指数)、化学的防御の指標として縮合タンニン濃度、総ポリフェノール濃度、炭素・窒素濃度を測定した。
その結果、防鹿柵内外で下層植生の被度および多様度指数に有意差が認められ、柵外ではシカの採食圧を受けやすい種の減少がみられた。また、一部の種では柵外において葉の縮合タンニン濃度や総ポリフェノール濃度が高い傾向が認められた。一方、シダ植物では柵外でこれらの濃度が低い結果となり、被子植物とは採食圧に対する応答が異なることが示唆された。
以上の結果から、ニホンジカの過剰採食は森林下層植生の構造のみならず、一部の植物種においての防御特性が誘引されていることが明らかとなった。一方で、化学的防御物質の変化は種によって異なり、採食圧に対する応答には種間差があることが示唆された。本研究は、防鹿柵による植生保護の有効性を検討するうえで有用な知見を提供するものであり、今後の尾瀬国立公園における効果的な植生保護施策の推進に資することが期待される。