| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-610 (Poster presentation)
市民参加によるデータ収集の支援・促進を目的として設計された市民科学アプリケーションは、世界各国で開発・公開され、多数の参加者による広範なデータ収集を可能にしてきた。ただし、ユーザが自宅周辺やアクセスしやすい場所、あるいは自身が関心を持つ対象に偏って観察を行う傾向があり、生態学的に重要であるにもかかわらず目立ちにくい地点のデータが不足するという共通する課題がある。この課題に対し、先行研究では取得後のデータに対する統計的補正が主に採用されてきた。しかし、観測が行われなかった領域や、特定の時間帯・気象条件などデータが存在しない条件については補正が困難であり、空間的・条件的偏りを根本的に解消するには限界がある。そのため、データ収集段階においてユーザの移動や観測行動を誘導するアプローチが必要である。
そこで本研究では、観測行動への介入主体を開発者ではなく市民側に位置づける設計を採用した。従来の市民科学アプリケーションでは、調査の計画やデータ管理は運営者が担い、ユーザは主として観測データを提供する存在として位置づけられてきた。開発者や運営者が観測地点を直接指定する形で介入を行うと、ユーザが自律的に参加するという市民科学の特性を損なう可能性があると考えられるため、観測行動への積極的な誘導は基本的に行われてこなかった。そのため、本アプリでは、調査を企画する主催者と観測を行う参加者という役割を区別し、データ収集を主催したい者は誰でも主催者となれる仕組みを導入した。主催者は調査目的に基づいて観測が望ましい地点をチェックポイントとして設定し、参加者に地図上で提示することで観測地点を意図的に調整できる。本研究は、データ収集における空間的偏りの問題に対し、アプリケーション設計の観点から、誘導と自律性を両立させる介入する枠組みを提示する。