| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-620 (Poster presentation)
近年、シカ類の個体数増加が国内外で問題となっており、日本ではニホンジカ(以下、シカ)の採食圧による森林植生の劣化が進行している。森林生態系への影響を防ぐためには個体数管理が抜本的な対策であるが、効果が現れるまでに時間を要するため、短期的な対策として植生保護柵(以下、柵)の設置が各地で実施されている。一方、その効果検証は主に植物群集に限定されており、動物群集への波及効果を含めた生態系管理としての評価は十分ではない。動物は広範囲に移動できるため、対象とする柵内だけでなく、周囲に存在する他の柵の影響も受けることが考えられるが、他のシカ類での研究も含めて検証した例は存在しない。
本研究では、シカによる影響を受けることが知られている複数分類群(植物・昆虫・鳥類・哺乳類)を対象に、α, β多様性を用いて柵の効果を検証した。柵内において多様性に影響する要因を明らかにするため、柵内の要因に加えて、周囲の柵配置や環境要因を指標化して解析した。
その結果、全ての分類群で柵内外に異なる多様性パターンが見られ、α多様性は柵内で高い傾向が見られた。また、柵内において多様性を規定する要因は分類群ごとに異なり、移動能力の違いによって周囲に存在する柵の影響が異なることが明らかになった。さらに、柵内では環境要因の違いが機能群の構成や種組成と関連しており、それらの変化が多様性パターンの違いを生み出している可能性が示唆された。
以上より、植生保護柵の効果は分類群によって異なり、移動能力の違いに応じて柵配置の影響も変化することが示された。これらの結果から、複数分類群を考慮した生態系管理の重要性が示され、対象生物によって保全すべき柵の条件が異なる可能性が明らかになった。この知見は、柵の新規設置や修復の優先順位を判断するための科学的根拠を提供し、シカ類の採食圧が深刻化する地域における管理方策の構築に貢献する可能性がある。