| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-012 (Poster presentation)
タヌキアヤメは熱帯から暖温帯に分布し、湿地環境に生育する多年生草本で、国内では主に水田環境で生育が確認されている。しかし、農業の集約化や農業従事者の高齢化に伴う管理放棄、作付作物の変更による環境改変、除草剤の散布により本種の生育が危惧されている。西表島には、農地改良などが実施されていない水田群がわずかに残存している。その水田では農薬が使用されず、周辺には耕作放棄水田も存在する。この水田環境を踏査した結果、本種の生育は耕作放棄水田のみで確認された。本研究では、タヌキアヤメの種子発芽特性と生育環境との関係を明らかにすることを目的とした。結実直後の無処理種子を用いて15 ℃から35 ℃の試験温度における発芽試験を行った。その結果、本種の種子の発芽率は好気・明条件において各温度条件下で97.7 %以上が観察された。本種の種子は、広い発芽適温域をもつことが明らかとなり、この発芽特性は熱帯から暖温帯の多様な温度環境への適応を反映するものと考えられる。一方、嫌気・明条件および好気・暗条件では発芽が観察されず、本種の種子は光発芽性をもち発芽には酸素を必要とすることが明らかとなった。これらの発芽特性から、本種の種子は永続的埋土種子集団を形成すると考えられる。耕作放棄水田の一部では、本種が高密度(被度90%)で生育する立地が観察されたが、その後本種は消失し高茎草本のハイキビが優占した。これは、本種自身の繁茂による被陰が地表面の光環境を悪化させ、発芽が抑制されて新たな実生個体が出現しなかったことが一因と考えられる。一方で、本種は微小な種子を多量に生産して永続的埋土種子集団を形成し、攪乱に応じて出現と消失を繰り返す生活史戦略をとっていると考えられる。耕作水田で本種の生育が確認されなかった要因として、高頻度の攪乱により本種の発芽から結実までの期間が確保されないことが推察されるが、詳細については今後の検討が必要である。