| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-013 (Poster presentation)
近年、日本の平均気温は上昇し、最近では短時間強雨の発生件数も増加しており、劇的に気候が変化している。そのような状況において淡水域に生息する生物の状況も劇的に変化しつつある。中でも淡水魚は、その多くが絶滅危惧種になっている。イタセンパラAcheilognathus longipinnisは、全長8cm程度の小さなコイ科魚類で生きた二枚貝の鰓に卵を産み込むユニークな繁殖特性があり、国指定の天然記念物に選定されている。淀川水系,濃尾平野および富山平野の諸水系にのみに分布しているが、いずれの分布地域においても生息状況は芳しくなく、絶滅の危機に瀕していることから国内希少野生動植物種として保護されている。希少種ではその生息状況や場所が秘匿されることが多々あるが、富山県氷見市では、この天然記念物と言う文化財としての強みを活かし、イタセンパラの生息状況等を公開して学ぶ機会を広く普及することで地域住民の興味を醸成し、ひいては地域住民が希少種の守り人となっている。氷見市のイタセンパラは、万尾川水系と仏生寺川水系に生息しているが、仏生寺川水系では生息がほぼ確認されなくなり、現在の主な生息域の万尾川水系でも徐々に危機的な状況となっている。氷見市では、今まで系統保存を目的とした生息域外でイタセンパラを増殖している他に、生息域内でイタセンパラの生活史研究も盛んに行われている。生活史段階ごとの利用環境は仔魚期、稚魚期、幼魚期、繁殖期で大きく変化する。
仏生寺川水系では2019年に矢田部川でイタセンパラ100個体を再導入し、その後の生息状況を市民と合同でモニタリングしている。万尾川水系では2020年に十二町潟でイタセンパラが再確認され、現在は生息環境を調査し、生息地再生を検討している。本発表では、イタセンパラが生活史段階で使い分けている環境情報をベースとした再導入と生息地再生の意思決定の事例を示し、今後の課題と展望について議論したい。