| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-019 (Poster presentation)
近年、樹液が出る木が減りカブトムシやクワガタムシなどを見かける機会が減った。高桑(2007)はその原因として、薪炭林として使われてきた雑木林の管理放棄によるシロスジカミキリの減少を挙げている。放棄されて大径木となった木の樹皮は肥厚し、産卵できないためと考えた。これは「生態系エンジニア」の消失による樹液の減少と、それに伴う好樹液性昆虫の減少という因果連鎖と言える。
演者らは一昨年より、この仮説を広域スケールで検証してきた。昨年の生態学会大会では、シロスジカミキリの産卵痕は若いコナラやクヌギにみられ、若い林では甲虫や蝶などの樹液性昆虫が増えることなどを発表した。今回は、西日本の調査地も含めてより広範囲で調査を行い、上記の一般性を確かめた。その結果、兵庫県の調査地では、シロスジカミキリに代わり、ボクトウガによる穿孔が樹液を滲出させる頻度が高かった。またボクトウガの穿孔は、胸高直径40㎝以上の太い木で多かった。さらに、中部地方のシロスジカミキリと兵庫県のボクトウガでは、ともに産卵痕や潜入痕のある木の本数と樹液性昆虫類の個体数の間には正の相関が認められた。また兵庫県では、原因不明の樹液滲出の頻度もボクトウガと同等に高いこともわかった。以上から、樹液昆虫を支える生態系エンジニアには明瞭な地理的変異があることが判明した。これは、両種が好む気候帯の違いが関係している可能性が高い。また、管理放棄がもたらす弊害は、中部地方など東日本で顕著であり、西日本ではその影響は限定的であることが推察された。さらに、8月の伊那谷では7月と比べて著しく樹液昆虫の数が激減した。8月にはシロスジカミキリの産卵痕は乾燥しており、樹液の浸出がほとんど認められなかったため、この時期の高温と乾燥が樹液流の減少をもたらした可能性がある。今後の異常気象などの頻発により、樹液性昆虫が更なるダメージを受けるかもしれない。