| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-059 (Poster presentation)
ヒゲナガケンミジンコ類は本邦淡水域に20種ほどが出現するとされるが、ミナミヒゲナガケンミジンコ(Tropodiaptomus oryzanus Kiefer, 1937)は出現が非常に稀な種で、演者の網羅的な採集でも1箇所(某県の水田)で発見されたに過ぎない。国外では、本種は東アジアから東南アジアにかけて分布し、水田だけでなく湖沼や河川にも出現するとされ、新種記載は台湾の水田で得られた試料でなされている。しかし、東アジアの大陸部に分布する本種の形態が、新種記載論文が示す形態とは異なっていることから、本種の分類には疑問が残る。近年、タイ王国の本属の分類が再整理された際に、T. oryzanusからもDNA塩基配列が取得された。本研究では、本邦産個体のDNAデータを取得し、タイ王国のデータと比較するとともに、本邦産成体の形態をアジア各地のものと比較した。結果、本邦での形態は、東アジア大陸部ではなく、タイ王国ならびに新種記載論文の形態と一致したが、DNAデータでは、タイ王国と本邦の集団とを単一種とはみなせなかった。従ってT. oryzanusとされる種には複数の隠蔽種が包含されているようだ。なお台湾の本種はすでに絶滅したため、東アジアで狭義の本種と同様の形態を示す本邦のT. oryzanusは極めて貴重であるが、水田という、人為影響が強い環境に分布している。従って本邦集団の存続には細心の注意をはらう必要があり、まずは本種が出現する水田の特徴を把握することが急務である。