| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-082  (Poster presentation)

大峯山脈前鬼針広混交林における小規模防鹿柵の効果:長期モニタリングに基く実生動態
Effect of small-scale fences on seedling dynamics in a mixed broadleaf-conifer forest at Zenki, Omine Mountains based on long-term monitoring

*松井淳, 辻野亮(奈良教育大学)
*Kiyoshi MATSUI, Riyou TSUJINO(Nara University of Education)

 日本各地で大型植食獣のニホンジカが増加して、過剰な摂食圧や踏圧などを与えることで森林構造に多大な影響を与え森林が荒廃しつつあることが指摘されている。近年大峯山地域でもシカが増加しているといわれており、大峯山脈中央部に位置する前鬼周辺の森林では、1980 年代には林床が身の丈ほどのスズタケに覆われていたが、2005年にはほとんど消滅し樹木更新が阻害されていた。
 本地域における歴史文化的にも貴重な森林の更新可能性を検討するため、2005年に前鬼のツガ、モミ、ミズナラ、ブナ、ヒメシャラなどが優占する針広混交林に7基の防鹿柵を設置し、内外に各4 m2の実生調査枠を設けて、発生する実生の樹種、高さ、被食の有無、位置を記録して生残動態のモニタリングを行っている。
 発芽年がわかっている樹木実生を対象として、実生数、死亡率 (= 死亡数÷前年個体数)と実生更新密度 (1 m2あたりの新規実生数) を計算した。調査期間を通じて確認された58種、15,057本の実生が対象である。
 2025年には、柵内外で233本と487本の実生が死亡し、100本と155本の新規実生が加入し、総計で柵内835本、柵外1,318本の実生が確認された。
 合計実生数は、柵内では2012年から2025年にかけ減少し、柵外では2012年と2015年に極大があり、その後に減少している。柵外では毎年実生が供給される一方で死亡数も多いが、柵内では既存の実生が成長して林床が暗くなっているため新規実生が柵外より少ない。しかし死亡数も少ないため、合計した実生数は柵内外で2015年以降ほぼ同じ程度に保たれている。また2014年以降の死亡率は柵内外で差が小さくなったことも影響している。前鬼におけるニホンジカの生息密度は、2008年9-10月に17.7個体/km2、2019年9月に1.1個体/km2、2021年9月に1.1個体/km2、2023年10月に2.7個体/km2であり、2008年から2019年の間に大きく減少しており、この時期に実生への採食圧の影響は低減したと推測される。


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