| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-085 (Poster presentation)
北アルプスの立山地域は標高3000m級の山々を有し、日本有数の原生的な自然が残されている。しかし、1971年の立山黒部アルペンルート全面開通以降、年間約80万人の観光客が訪れるようになり、道路開設や利用者の流入といった人為的撹乱が自然環境に及ぼす影響が懸念されている。これを受け富山県では、立山の標高1040mから2830mの標高傾度に沿った10地点において1998年から植生モニタリングを実施してきた。本研究では、2025年に調査を行った標高1960mの美松調査地に着目し、道路開設が森林植生に及ぼす時空間的影響を検証した。
調査は、道路と並行なx軸50m、道路からの距離を示すy軸100mの計0.5haのプロットで実施した。プロット内の全高木(胸高直径10cm以上)を対象に位置情報および胸高直径を測定した。また、道路に隣接する50m×50mの範囲を25個の10m四方サブプロットに分割し、下層植生の被覆率を記録した。これらを用いて、森林植生の空間変化や1999年から2025年までの時間変化を解析した。
高木層は、オオシラビソとダケカンバが個体数および胸高断面積で優占していた。道路からの距離に伴う変化を分析したところ、道路遠方(y=20–100m)では陰樹のオオシラビソが、道路近傍(y=0–20m)では陽樹のダケカンバが優占していた。1999年から2025年の動態を見ると、道路近傍ではオオシラビソが顕著に死亡し、ダケカンバが活発に新規加入していた。一方、道路遠方ではオオシラビソの死亡率は低く、森林は安定していた。道路近傍(y=0–20m)の下層植生は遠方(y=30–50m)と組成が大きく異なり、観測期間中に大幅な群集構造の変化も確認された。これらは好光性草本の増加を伴い、道路開設に伴う林縁効果に加え、高木層が常緑のオオシラビソから落葉性のダケカンバへ移行し、林床の光環境が好転したことに起因すると考えられる。
以上から、道路開設という人為的撹乱が高木層の種組成変化を介し、下層植生の構造を中長期的に改変していることが示唆された。