| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-092  (Poster presentation)

山岳域におけるユモトマムシグサ群2種の局所的な空間分布の違い:融雪時期の影響
Differences in the local spatial distribution of two species within group Arisaema nikoense in mountainous regions:Impact of the snowmelt period

*前田夏樹(信州大学), 柿嶋聡(昭和医科大学), 高橋耕一(信州大学)
*Natsuki MAETA(Shinshu Univ.), Satoshi KAKISHIMA(Showa Medical Univ.), Koichi TAKAHASHI(Shinshu Univ.)

植物種がどのように交雑を回避しているかを解明することは、種の維持を理解するうえで重要である。日本の中部山岳域は起伏の激しい複雑な地形の山岳域であり、固有種の多い地域である。同属内で種数の多い植物としてサトイモ科テンナンショウ属がある。この植物は世界で180種ほどが確認されており、そのうち44種が日本固有種である。特にマムシグサ節は日本で急速な多様化が発生した種群である。北アルプスの上高地地域では、ユモトマムシグサ(以下、ユモト)とカミコウチテンナンショウ(以下、カミコウチ)の近縁2種が近接して分布しているが、雑種は確認されていない。これら2種は雌雄異株で、虫媒花である。この研究では、2種のハビタット選好性と開花フェノロジーの違いを3つの登山道(岳沢、涸沢、槍沢)ぞいで調べ、2種が独立して維持されている要因を明らかにすることを目的とした。
ユモトは岳沢の高標高のみ(1,700~2,170 m)に分布しており、カミコウチは岳沢(1,500~1,700)および涸沢、槍沢(1,500~2,100 m)に分布していたことから、2種の分布は空間的に分かれていた。主成分分析の結果、2種のハビタット選好性は異なっており、ユモトは融雪時期の早い場所に分布していたのに対し、カミコウチは融雪時期の遅い場所に分布していた。
岳沢の高標高でユモトの開花期間は、岳沢、涸沢、槍沢の同標高のカミコウチの開花期間とほとんど差が見られなかった。そのため、開花フェノロジーによる交雑の回避はないと考えられる。
各登山道の間には、3,000 m級の山脈が連なっており、これによって登山道間の送粉者の移動が制限されている可能性がある。岳沢ではユモトとカミコウチの分布が近接していたが、分布境界付近のユモトの個体数は非常に少なく距離も離れていた。したがって、2種のハビタット選好性の違いと局所的な地理的障壁が、上高地地域における近縁な2種の維持に重要であることが示唆された。


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