| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-102 (Poster presentation)
森林生態系内に自生する樹種を対象に花および果実形成過程を研究し、繁殖段階の資源利用を明らかにすることは、森林の多様性を保全する上で重要である。また、様々な生育環境に順応して生育する樹種において、生育場所の地理的な違いは開花および果実成熟過程における花序の形態にも影響を与える可能性がある。本研究では、広域分布種であり森林生態系の遷移初期段階において重要な役割を果たすエゴノキ(Styrax japonicus)に着目し、繁殖段階における花序シュートの形態と維管束構造の形成過程を明らかにするとともに、地理的に異なる環境条件がそれらにどのような影響を及ぼすのかを検証した。
暖温帯に位置する鹿児島大学付属高隈演習林 (以降、高隈と呼ぶ)と冷温帯に位置する九州大学付属宮崎演習林 (以降、椎葉と呼ぶ)にて、エゴノキの花序シュートを採取し、当日花重、果実重と、花梗および花柄の長さ、断面積を測定した。花梗と花柄をそれぞれPEG1500で包埋したのち、スライディングミクロトームで切削し、サフラニン、トルイジンブルー、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液で三重染色し、デジタル顕微鏡を用いて観察した。
エゴノキの花序シュートでは、開花期から果実成熟期にかけて、花梗は長さを伸ばさず、断面積を大きく変えずに、果実成熟段階で皮層における石細胞を形成していた。花柄は長さを伸ばし、断面積を大きくすることで、木部組織の二次成長による厚壁細胞がリング状に形成されていた。花梗は椎葉より高隈で長く、温暖な地域において光合成産物を多く生産でき、結果として花序の骨格となる花梗を伸長し花序全体を拡大させたと考えられる。一方、花柄は高隈より椎葉で長く、花梗が短く、加えて果実の重量が軽かったことから、冷涼な地域において花や果実および花序軸の形成にかけられるコストが限られるため、花柄を伸長させることで種子散布の確率を向上させていると考えられる。