| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-107 (Poster presentation)
【背景と目的】 シオジ(Fraxinus platypoda)は,主に太平洋側の冷温帯渓畔林に分布するモクセイ科の落葉高木である.本種の性表現は一般に雌雄異株とされるが,その繁殖様式には不明な点が多い.本研究では,シオジの繁殖特性を包括的に解明するため,1) 花の形態,2) 花粉の稔性,3) 受粉システム,4) 開花周期,5) 結実における当年葉の役割について検討した.
【結果と考察】 1)形態的性表現:花には2本のおしべからなる雄花と,1本のめしべと2本のおしべを持つ両性花が存在した.雄個体の花序には雄花のみが,雌個体(形態的な両性個体)の花序には両性花と雄花が混生していた.個体群内に雄個体と両性個体が共存することから,形態的には雄性両性異株(Androdioecy)であることが明らかになった.
2)機能的性表現と受粉系:雄個体の雄花,および両性個体の両性花・雄花から得られた花粉はいずれも高い発芽能力を有していた.交配実験の結果,両性個体は自家不和合性を示す一方,雄個体や他の両性個体との交配で結実した.以上より,本種は機能的にも雄性両性異株として振る舞うことが示された.
3)開花トレンドと気候変動:1991年から2025年にわたる35年間の長期観測の結果,2〜3年周期の明確な豊凶が認められた.長期トレンドとしては開花量が増加傾向にあり,特に観測後半には雄個体で豊凶の振幅が縮小し,高い開花レベルが持続した.これは近年の気温上昇が本種の生理活性を刺激,あるいは花芽形成プロセスを変化させている可能性を示唆しており,気候変動が繁殖フェノロジーに及ぼす影響を注視する必要がある.
4)繁殖資源の動態:開葉期に両性個体の花序付随葉を全て除去しても,秋には正常に結実したが,処理を施した枝は翌年に枯死した.このことから,シオジの結実は当年葉の同化産物ではなく,前年までの貯蔵養分に依存しており,結実という繁殖投資が翌年以降の枝の生存に対して大きなコストとなっていることが明らかになった.