| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-109  (Poster presentation)

奈良公園の矮化オオバコにおける形質進化と集団ゲノム解析
Population Genomic Insights into the Phenotypic Evolution of the Dwarf Plantago asiatica in Nara Park

*石川直子(東北大学), 高橋大樹(九州大学), 陶山佳久(東北大学), 阪口翔太(京都大学)
*Naoko ISHIKAWA(Tohoku University), Daiki TAKAHASHI(Kyushu University), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku University), Shota SAKAGUCHI(Kyoto University)

植物の形態は環境応答によって変化するが、強い選択圧下では可塑的応答が固定化され、遺伝的に安定した適応形質へと進化することがある。しかし、自然集団においてその分子基盤、とくに遺伝的変異とエピジェネティック制御の関係を実証した例は限られている。
オオバコ(Plantago asiatica)は東アジアに広く分布する異質四倍体の草本であり、奈良公園や宮島など、シカによる強い採食圧下で独立に進化した矮化型エコタイプが知られている。矮化型は葉の小型化や花茎の短縮などの形質を示し、これらは遺伝的に安定に継承される。奈良公園ではシカの増加が約1200年ほど前から始まった可能性があるとされ、矮化型は強い選択圧下で比較的短期間に進化したと考えている。本系は強い自然選択下での適応進化を検証できる野外研究対象であり、さらに複数地域で独立に成立した矮化型を比較できることから、類似形質が同一の遺伝基盤によって生じたのか、あるいは異なる経路を通じて進化したのかという収斂進化の検証にも適している。
これまでに我々は、ドラフトゲノムとPool-seq解析から、矮化型と通常型の間で高いFstを示す候補領域を同定してきた。本研究ではさらにPacBio HiFiデータを用いて高精度なゲノムアセンブリを構築し、参照配列を再構築したうえで分化解析を再評価した。その結果、ゲノム全体の分化は限定的である一方、局所的にFstが顕著に上昇する領域が複数検出された。これは、強い採食圧下での局所的選択を示唆する。
DNAメチル化などのエピジェネティック変化は環境応答に関与し、世代を超えて継承されることも報告されている。本系は、遺伝的分化が局所的に集中する状況において、エピジェネティック制御が自然選択とどのように相互作用するかを検証できるモデル系として有望である。今後はゲノムレベルでのメチル化解析を統合することで、矮化形質の進化機構を包括的に解明することを目指す。


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