| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-110  (Poster presentation)

山形県におけるササ属チマキザサ節の分布と生態的・遺伝的差異
Species distribution and ecological/genetic differences of Sasa sect. Sasa in Yamagata Prefecture

松下沙友里, 小川りさ, *富松裕(山形大学)
Sayuri MATSUSHITA, Risa OGAWA, *Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata University)

同じ地域に共存する近縁種間では競争排除則が働くことから、通常はニッチが異なる。イネ科ササ属では、チシマザサ節が主に日本海側や高標高域の多雪地に、ミヤコザサ節が太平洋側の寡雪地に分布するなど、節間で気候ニッチの差異が認められる。一方、各節内では、葉裏や稈鞘の毛の有無などに基づいて種が記載されてきたが、複数の種が混在して生育することも少なくない。節内の種間で生育ニッチに違いがあるかは十分に検討されておらず、それらが実際に独立種とみなせるかも未解決の課題である。本研究では、山形県におけるチマキザサ節各種の分布と生態的・遺伝的差異について検討した。標準地域2次メッシュごとにチマキザサ節の稈を採集し、小林(2017)に従って分類したところ、クマイザサやオオバザサなど葉裏に軟毛が密生する種の分布は内陸盆地に集中していた。一般に、葉裏の軟毛は気温の低い場所や乾燥地の植物で多く見られる。Maxent法による種分布モデルでは、これらの分布が年降水量によってよく説明され、降水量の少ない場所ほど適地確率が高かったことから、軟毛は乾燥に対する適応形質である可能性が考えられた。また、稈鞘に毛がない種の分布も、降水量の少ない場所ほど適地確率が高かった。稈がハエの幼虫により被食を受けることを考慮すると、降水量の少ない地域では植食者の発生が安定して抑制され、防御形質としての毛を形成する必要性が低下するのかもしれない。さらに、チマキザサ節以外のササを含めてゲノムワイドSNP解析を行ったところ、一部の個体がミヤコザサ節との複合体であることが示唆されたが、チマキザサ節の種間では明瞭な遺伝的差異が認められなかった。以上の結果から、チマキザサ節の種間で見られる形質変異は、局所適応もしくは表現型可塑性に由来する種内変異として捉えられる可能性がある。今後は山形県以外の地域を含めた広域的な調査が求められる。


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