| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-112 (Poster presentation)
無性生殖種が近縁の有性生殖種にくらべ、高緯度側に広い分布を示す地理的単為生殖が知られているが、その機構は議論されている。本研究では、ヤブコウジ属で最も高緯度に分布する、アポミクシスを行うクローナル植物ヤブコウジを対象に、種子繁殖と栄養繁殖が分布拡大に果たす役割を、生態学的観察と集団遺伝学的解析から検討した。
ヤブコウジは森林林床に生育する常緑の矮性低木で、地下茎を伸ばしてラメットを形成する一方、虫媒性の花を咲かせ、鳥散布性果実を形成する。実験室内で発芽させた種子の40%は胞子体型アポミクシスを示す多胚性であった。マイクロサテライト解析から、単胚性種子の胚の約半数はアポミクシス性で、残りの胚は主に他家受精由来であった。調査地の林床では実生は観察されず、群落はターンオーバー率の高いラメットによって構成されていた。ミクロスケールの解析では、複数のクローンが複雑に入り組み、高いクローン多様性が維持されていた。一方、ランドスケープスケールでは少数の優勢クローンが河川・平野など地理的障壁を超えて、調査域全体に広く分布していた。さらにMIG-Seq解析により、広域に分布する単一クローン内では、距離による遺伝的分化が必ずしも成立しないことが明らかとなった。これは、種子繁殖(アポミクシス)と鳥による散布がクローンの拡大に貢献していることを示す。
以上より、ヤブコウジでは、撹乱地への侵入や地理的障壁を越えた移動は主に種子繁殖によって担われ、定着後は栄養繁殖によって群落が維持されると考えられる。栄養繁殖は群落の維持とともに、創始者の遺伝子型とヘテロ接合度を保持するが、それは有性生殖による新しい遺伝子型の生成を支える。一方、種子繁殖は栄養繁殖の移動性の低さを補填し、環境変動に対する種の維持の保険となる。