| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-120 (Poster presentation)
樹木の吸水深度は乾燥耐性や森林生態系内の水循環に影響を及ぼす重要な特性である。カンボジアを含む東南アジア地域では、気候変動により今後乾燥の頻度や強度の増大が予測されており、乾燥に対する森林生態系の応答を予測する重要性が高まっている。そこで本研究では、カンボジア・シェムリアップ州クーンリアム森林研究所内に隣接する落葉樹林、半常緑樹林、常緑樹林の3タイプの森林を対象に、吸水深度の季節変動、森林タイプ間差、種間差、ならびに吸水深度と地上部形質との関係を検証した。樹木の吸水深度は、土壌水中の酸素安定同位体比(δ18O)勾配と辺材部に含まれる水のδ18Oを照合する方法により推定した。各森林タイプで2023年2月(乾季)および6月(雨季初期)に対象樹木の辺材部と周辺土壌(0–200 cm)を採取し、サンプルに含まれる水のδ18Oを測定して、MixSIARモデルにより土壌表層・中層・深層からの吸水割合を推定した。また樹高、比葉面積、葉の乾物含有量、葉の窒素含有量、葉の炭素安定同位体比(δ13C)、材密度が吸水深度に与える影響を検証した。
乾季に55種187個体、雨季に62種214個体の吸水深度を推定した結果、いずれの森林タイプでも乾季に吸水深度が深く、雨季に浅い傾向が認められ、土壌水分分布に応じて吸水深度が季節的に変動することが示された。乾季には落葉樹林で半常緑樹林や常緑樹林よりも吸水深度が浅く、深層に粘土が多い土壌条件により根の深部への貫入が制限されていた可能性が示唆された。また、両季節で種間差が認められ、地下部における水資源をめぐるニッチ分化の存在が示唆された。さらに、乾季には樹高が高い個体ほど吸水深度が深く、葉のδ13Cが低い(水利用効率が低い)個体ほど吸水深度が深かった。これらの結果は、地上部サイズから吸水深度をある程度予測できること、ならびに葉と根の水利用特性の間にトレードオフ関係が存在する可能性を示している。