| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-137 (Poster presentation)
ツバキ節植物には13種が含まれ、日本にはユキツバキとヤブツバキの2種が自生する。両種の分布域と開花時期は部分的に重複しているが、ユキツバキはクロマルハナバチやハエなどの昆虫が、ヤブツバキはスズメ目の鳥類(メジロ、ヒヨドリ)が訪れ、送粉者が異なることが知られる。より祖先的な中国のツバキが虫媒であることから、ヤブツバキは虫媒から鳥媒への送粉者シフトを伴い種分化したと推察される。先行研究で発表者らは、クロマルハナバチがユキツバキの花に選好性を示す一方で、ヤブツバキにはほとんど訪花しないこと、選好性が視覚あるいは嗅覚情報に基づく可能性が高いことを報告した。本発表では視覚の要素に着目し、送粉者の可視領域を考慮して両種の花弁色差を解析した。さらに、色差の原因となる色素化合物を単離・同定し、その生合成における関連遺伝子の発現を調べた。花弁の拡散反射スペクトル測定の結果、両種は赤色領域の反射特性は共通だが、ユキツバキはヤブツバキに比べてUV反射率が顕著に高いことが分かった。視覚モデリングの結果、ハチはUV反射率の差異によってユキツバキを視認しやすく、ヤブツバキを視認しづらいことが判明した。花弁抽出物のUV吸収スペクトルとDAD-HPLC分析から、ヤブツバキでは特有成分がUVを吸収することでUV反射率が低下していることが分かった。ヤブツバキ花弁抽出物から特有のUV吸収物質を単離し、NMRとMS/MSスペクトル解析によって同定した。その推定生合成経路に働く酵素遺伝子に着目し、花弁のトランスクリプトーム解析を行った結果、ヤブツバキでは発現量が極めて高いことが分かった。また、クロマルハナバチ行動実験の結果、このUV吸収色素はハチの訪問数を有意に低下させた。以上から、UV吸収色素によってハチへの視認性が低下し、虫媒から鳥媒へのシフトの一因になったと考えられた。