| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-138 (Poster presentation)
スミレ属は国内各地に約50種が自生し、都市公園や里山などでみられる普通種を含む、私たちに身近な植物である。また、スミレ属は、一部の種から観賞用の園芸品種が作出されたり、国内の90種・亜種・変種が環境省・地方自治体のレッドデータに記載されたり、ヒョウモンチョウ類の食草や春に羽化する吸密性昆虫の蜜源になったりなど、我が国の生物多様性の保全を考えるうえで重要な植物である。
近年の研究により、ショウジョウバエ科ハエ類によるスミレ類種子の食害を見出した。ショウジョウバエ科で植物種子を食する種はこれまで記録されていなかった。スミレ類種子を食害するこのハエ類のメス成虫はスミレ花の萼片外部に産卵し、孵化した幼虫が鞘果の根本に穴を穿って内部に侵入し、複数の未熟な種子の種皮内を食べて成長した。成熟した幼虫は果皮直下で前気門を外部に突出させて蛹化し、羽化した成虫が鞘果から脱出した。北海道から九州までの13地点でこのハエ類による食害の有無を調査し、これらが10都道府県でタチツボスミレ、ニョイスミレなど6種のスミレ類に寄生することを確認できた。また、定点で発生消長を調査した東京都八王子市で、2025年4月から10月までの間にこれらの各発育段階の個体を確認できた。
形態学的特徴および分子配列から、このハエ類はマメショウジョウバエ属Scaptodrosophilaに属する複数種を含むことが分かった。形態学的特徴で近似する種は、国内(東京都)産の♀標本に基づいて1956年に記載されたアカズショウジョウバエS. puncticeps、中国(遼寧省、雲南省)産の♂♀標本に基づいて2020年に記載されたS. sinuata およびS. serrateifoliaceaであった。国内各地のスミレ類に寄生するマメショウジョウバエ属の形態学的特徴に明確な差異は見出されなかった。東北から九州までの国内3地点に由来する個体のSNPs解析から、これらのマメショウジョウバエ属は遺伝的に隔離された2つの集団から成り、これら2集団が同所的に分布していることが分かった。