| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-145 (Poster presentation)
近年、ニホンジカ(以下、シカ)の採食による自然植生の衰退が国内各地で進行している。岐阜県では、シカの採食が森林生態系に及ぼす影響を把握するため、落葉広葉樹林約360林分を対象に、2014年、2016年、2019年、2024年の4時点で下層植生衰退状況の調査を実施してきた。衰退の評価には、各林分における低木層植生の被度とシカによる食痕の有無を組み合わせた指標であるSDR(shrub-layer decline rank、以下、SDR)を用いた。本研究では、岐阜県のSDR調査結果を基に地理情報システムによる空間内挿を行い、SDRの空間分布を推定するとともに、各期間におけるSDRの変化量を算出した。さらに、変化量の地域的傾向を整理し、県内のシカ推定生息密度(以下、シカ密度)との関係について考察した。2014–2016年の2年間では、中部および東部で衰退の進行がみられた。一方、西部および北部では大きな変化は確認されなかった。2016–2019年の3年間では、県全域で下層植生の衰退が顕著に進行し、特に西部北側および北部で広域的な悪化が認められた。この時期はシカ密度が高止まりしていたことから、シカによる累積的な採食圧が広範囲に影響した可能性が示唆される。2019–2024年の5年間では、北部および東部において下層植生の衰退の進行が一定程度抑制される傾向がみられた。本期間はシカ密度が減少傾向にあり、年間約2万頭の捕獲を継続していたことから、シカの個体数管理の強化による採食圧の低減が影響した可能性がある。ただし、衰退の進行が抑えられつつあることは、直ちに植生の回復を意味するものではなく、下層植生の再生にはより長い時間が必要と考えられる。一方、中部の一部および西部から中部にかけての地域では依然として下層植生の衰退が進行しており、地域間で動向が分化していることが明らかとなった。