| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-152 (Poster presentation)
生物は捕食者に対して、逃避・威嚇・擬態など多様な防衛戦略を進化させてきた。群れで生活し、繁殖の単位が個体からコロニーへと移行した社会性昆虫では、血縁選択により極端に自己犠牲的な防衛行動も進化しうるため、防衛戦略の進化を理解するうえで優れた研究材料となる。本研究では、ヤマトシロアリ属のワーカーが重傷を負うと、外敵の注意を引き付け、進撃を遅延させる囮行動をすることを報告する。まず、ワーカーを捕食者であるアリに襲撃させたところ、重傷を負った個体は逃走せずその場に留まり、体を左右に揺らす特徴的な揺動行動を示すことを発見した。次に、人為的に揺動状態または不動状態にしたワーカーを通路上に配置し、ジェネラリスト捕食者であるムネアカオオアリの進撃速度への影響を比較した。その結果、揺動状態の個体はアリの攻撃・警戒行動を誘発し、不動状態の個体よりも進撃を有意に遅延さることが判明した。一方、スペシャリスト捕食者であるオオハリアリに対しては、この進撃遅延効果は認められなかった。さらに、外傷誘発性の揺動行動の有無を複数のシロアリ種で比較した結果、本行動はヤマトシロアリ属内では保存された形質である一方、それ以外の主要なシロアリの系統では確認されなかった。以上の結果は、重傷を負った個体が自ら囮となって捕食者の注意を引きつけ、仲間の退避を助けるという新たな防衛戦略の存在を示すものであり、生物における自己犠牲行動の進化と多様性に新たな視点を提供する。