| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-154 (Poster presentation)
相利共生関係は常に安定した協力関係として維持されるわけではなく、環境に応じて大きく変動する。ホンソメワケベラが他の魚(顧客魚)の外部寄生虫を摂餌する掃除共生においては、本種が本来好む顧客魚の体表粘膜を齧る頻度を抑えることで、共生関係が維持されていると考えられてきた。しかし、愛媛県室手湾に生息する本種は寄生虫を掃除する頻度が低く、粘膜かじりや顧客魚からの掃除の要求を無視するなどの非協力的な行動の頻度が高いことを観察した。本種がどのような相手に非協力的にふるまい、これらの行動が共生関係にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的に、本種の摂餌行動と、顧客魚の体長や居住性などの特性との関係を、掃除を頻繁に行う沖縄県瀬底島の個体群と比較した。野外での個体追跡による行動観察の結果、室手個体群は瀬底個体群に比べて掃除が少なく、顧客魚を無視したり、顧客魚に接触を避けられる非協力的行動の割合が高かった。また、室手個体群は大型の定住性の魚に対してよく掃除を行い、周囲の魚の数が多いときはその傾向が顕著であった。さらに、室手湾の魚は寄生虫が少ないこともわかった。なわばり内で顧客魚の訪問を待つ瀬底個体群とは逆に、室手個体群は広い行動圏を泳ぎ回って顧客魚を訪問した。瀬底個体群はまれにしか現れない回遊性の顧客魚を優先的に掃除するのに対し、資源が乏しく、顧客魚に逃げられるリスクの高い室手個体群はなわばり内に定住する顧客魚に対しても掃除を行う場合が多いと考えられる。寄生虫資源の乏しい環境では、本種が顧客魚に対して協力的にふるまう頻度は低下するが、共生関係が解消されるわけではなく、顧客魚にアクセスする機会を失わないよう、相手や状況に応じて巧みに戦術を調節している可能性がある。