| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-161 (Poster presentation)
哺乳類の行動の個体差の理解は生態研究や保全、管理上重要である。これまで、個体の行動追跡にはbio-loggingが主に用いられた。しかし、追跡装置の装着は金銭的コストや体サイズ、長期装着などの点で制約が大きく、多個体への適用が難しい。代替手段として、成長に伴い増加し、物質の置換が起きない組織を用いた回顧的同位体分析による行動追跡(iso-logging)が有用となる例が増えている。発表者らは、ヒグマ(Ursus arctos)をモデルに水晶体のiso-logging手法を確立したが、各分析値が個体の何歳時の情報に対応するか明らかでなかった。本研究では、ヒグマ水晶体を対象に、復元した同位体情報と年齢の対応関係特定のための成長様式の解明を目的とした。
北海道の道央と南部地域より、2022~2025年に捕獲されたヒグマ97個体(オス60、メス37個体、0.2~18.5歳)から、それぞれ歯と水晶体を採取した。歯の成長線、捕獲月、体サイズから各個体の年齢を特定した。水晶体を乾燥後、直径を計測して半径を算出した。雌雄それぞれについて半径と年齢の関係を3つの漸近的な成長モデル(von Bertalanffy、Logistic、Gompertz)で回帰し最適モデルを探索した。
結果、水晶体半径は出生からオスで3.1歳、メスで1.5歳まで指数的に伸長し、それぞれ漸近値約3.7 mm、3.5 mmに達した。その後は緩やかに線形伸長したが、漸近年齢以降の伸長量は小さく、オスは15年で約0.4 mm、メスは約10年で約0.2 mmに留まり、個体間のバラつきも大きかった。以上より、現手法では漸近的な成長モデルを適用することで、オス、メスそれぞれ1.5~3.1歳頃までの同位体履歴を復元できる。今後、不足する年齢の試料追加や水晶体半径の個体によるバラつき考慮、漸近成長後の線形伸長を含めた成長モデルの検討が必要である。