| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-165 (Poster presentation)
環境DNA分析は、生物分布を効率的に把握できる手法である。一方で、従来の環境DNA分析では検出感度の制約により、個体密度が低い、あるいは活動性が低く環境DNAの放出量が少ない個体群を検出できない場合があり、偽陰性が生じるという課題が指摘されている。さらに、環境DNA濃度が低い条件下では定量精度が低下し、測定誤差が増大することも問題となる。特に、重要な水産資源であると同時に絶滅危惧種でもあるニホンウナギの調査においては、低個体密度の海洋環境における確実な検出と、測定誤差の少ない定量を両立するため、DNA検出感度の向上が強く求められている。本研究ではこの課題に対応するため、ウナギ(Anguilla 属)ゲノム中に高頻度に存在するレトロトランスポゾン「UnaSINE1」を標的とした新規検出系を開発した。従来のミトコンドリアマーカーとの比較の結果、本マーカーはDNA溶液中において従来マーカーの約263倍多く存在することが明らかとなった。河川調査では、ミトコンドリアマーカーが81検体中32検体で検出されたのに対し、SINEマーカーでは62検体で検出された。また、測定誤差を示す変動係数は、新規マーカーの使用によって有意に低下した。さらに、沿岸域で採水した複数のサンプルから、ウナギの生息を示唆する高濃度のレトロトランスポゾンDNAが検出された。これらの結果から、レトロトランスポゾン(SINE)を標的としたマーカー利用は、サンプリングや試薬のコストを増加させることなく、検出感度を大幅に向上させる実用的なアプローチであることが示された。2桁以上の感度改善により、沿岸域におけるウナギの分布把握や産卵回遊のモニタリングへの応用が期待される。