| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-166 (Poster presentation)
アカギツネは、高い分散性や環境適応力に特徴づけられた生物地理学的に興味深い種である。本州、四国、九州に固有の単系統亜種であるホンドギツネは、過去に東西日本の間で長期にわたる分布分断とその後の二次的接触を経験したと考えられる。しかし、それらのイベントの時期や動態は未知である。また、本亜種は本州、四国、九州の集団間で異なる遺伝的系統に進化していることが示唆されているが、九州集団と比較して四国集団の分化が著しく浅いなどの不可解な点が残されている。そこで本研究では、常染色体上のゲノムワイドSNPsに基づいて二次的接触と島嶼分割の集団動態モデルを構築し、ホンドギツネの進化シナリオを精緻化することを目的とした。全国から収集したサンプルについてddRAD-seqを実施し、δaδiを用いて東西祖先集団間の二次的接触モデルを、DIYABC-RFを用いて本州、四国、九州間の集団分岐モデルを最適化した。δaδiの結果、集団サイズ一定・非対称遺伝子流動モデルが選択され、東西祖先集団間の分岐時期は約75(90–63)kaの最終氷期、二次的接触の開始年代は約12(13–10)kaの後氷期と推定された。また、DIYABC-RFの結果、3島の集団が約5 kaに同時分岐し、さらに数十年前に施行された本州から四国への人為導入によって遺伝子浸透が生じたモデルが選択された。本研究と既往研究の知見を統合し、ホンドギツネの集団史仮説を以下のように更新する。①第二氷期において対馬海峡に生じた陸橋を経由して古本州島へ移入、②第二間氷期において大陸集団から隔離され、島内広域に拡散、③最終氷期において古本州島の東西へ分布分断、④最終氷期の終焉に伴い東西祖先集団間で二次的接触を開始、⑤縄文海進により本州、四国、九州の各島へ同時分断、⑥前世紀の人為導入によって四国集団で遺伝的攪乱。このシナリオは、第四紀の気候振動が生物地理学的分散–分断サイクルを駆動することで大陸島における陸棲哺乳類の遺伝的多様性の創生に強く貢献したことを支持する。