| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-168 (Poster presentation)
近年の地球温暖化や異常気象の頻発に伴い、蚊媒介性感染症のリスク管理は喫緊の課題となっている。従来、媒介蚊の個体群動態モデルは広域的な気候区分やマクロ気象データに基づく一般化手法が主流であった。しかしながら、温度や降雨の影響は、土地利用に規定される局地的な環境構造を介して変化することも報告されている。
本研究では、約30kmの近接距離にありながら対照的な景観構造をもつ2地点(東京都新宿区: 都市域; 埼玉県北本市: 郊外域)を対象に、土地利用に由来する生態的・水文学的構造が蚊個体群動態にどのような制約を与え、それが気象要因への応答をいかに変化させるかを比較した。観測データを用い、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)およびアカイエカ(Culex pipiens)を対象に、一般気象要素を駆動力とするプロセスベース個体群動態モデルにより個体群の季節動態を再現し、地点間における構造的応答差を検証した。
その結果、ヒトスジシマカでは郊外域において捕食圧などの生物的抵抗が都市域より強く作用し、個体群密度の上昇が抑えられていた。都市環境を基準に構築したパラメータをそのまま適用すると、郊外個体群を過大に推定することが示された。一方、アカイエカでは、幼虫流出死亡が発生する降雨閾値が、不透水面の多い都市域では約46mm/日であったのに対し、開水面を含む郊外域では約146mm/日と高く、強雨時にも幼虫が流出しにくい水域構造の違いが明確となった。
以上より、景観構造に由来する生態的および水文学的過程が個体群動態を規定し、同一のマクロ気象条件下であっても、景観構造の違いに応じて個体群動態が分岐することが示された。媒介者管理においては、広域気候情報のみを前提とするのではなく、土地利用に基づく局地的過程を明示的に組み込んだ評価枠組みが必要である。