| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-176  (Poster presentation)

ハイイロゲンゴロウの性的形質とその地理的変異について
Sexual selected traits and geographic variation in the diving beetle Eretes griseus

竹内成太(香川大学), *松村健太郎(東京大学), 安井行雄(香川大学)
Seita TAKEUCHI(Kagawa University), *Kentarou MATSUMURA(The University of Tokyo), Yukio YASUI(Kagawa University)

形質における性的二型が生じる原因の1つに性的対立による拮抗的な共進化がある。水生昆虫のゲンゴロウの多くの種では、雄は前脚跗節に吸盤を持ち、これは交尾する際に雌の背板に張り付くことで水中でも長時間の交尾を可能にする効果がある。しかし雌にとっては、雄の吸盤は雌が交尾中に水面に浮上して呼吸することを妨害し、長時間の交尾が溺死する危険性を高める形質となる。その一方で、多くのゲンゴロウ種では、雌の背板表面構造が雄と比べて顕緒に粗面であり、これは雄の吸盤の吸着力を低下させるように性的対立によって進化した形質であると考えられている。しかしながら、ハイイロゲンゴロウEretes griseusのように、雄が吸盤を持つにもかかわらず、背板表面に性的二型が見られない種も存在するが、そのような種における雌の抵抗形質については不明なままである。本研究では、ハイイロゲンゴロウを用いて、雌雄の外部形態と交尾行動の関係性を実験室内で調査し、さらに野外個体群を用いた性的形質の地理的変異に関する調査も行なった。交尾行動を観察した結果、吸盤の数が少ない雄と後脚が長い雌をペアにした時に交尾時間が短いことが明らかになったことから、本種の雌の後脚が雄の吸盤に対する抵抗形質であることが示唆された。また、日本の地理的に異なる5地点から採集された野外個体群間で形態形質を比較した結果、雄の吸盤数と雌の後脚長の両形質において地理的変異が見られたが、両者の形質の関係性は野外個体群間で共変動しなかった。したがって、本研究結果は、室内観察によって示唆された雄の吸盤と雌の後脚の性的対立が、野外においては軍拡競争の対象形質とはなっていないことが示唆された。本講演ではこれらの結果について様々な視点からの議論を試みる。


日本生態学会